浜松市二俣の秋野不矩美術館、インドに魅せられた女流日本画家が93歳まで描き続けた作品群

浜松だより

こんにちは、カービーです。

浜松市街から車で約1時間北、天竜区二俣に当地出身の女性日本画家の名を冠した秋野不矩(ふく)美術館があります。

二俣の町を見下ろす丘の上に森の緑に囲まれて建つ美術館の中には、インドに魅せられた秋野不矩の作品が数多く収蔵。

93歳まで創作に邁進したエネルギーの塊の様な画家、秋野不矩。

彼女の生い立ちとインドとの関わり、館内の見所など、秋野不矩美術館についてご紹介していきます。

秋野不矩の『不矩』に込められた反骨心

秋野不矩の本名は『秋野ふく』(1908年7月25日-2001年10月11日)。

静岡県磐田郡二俣町(現在の浜松市天竜区二俣)に生まれ、女学校を卒業後に小学校で教鞭を執るも1年で退職し絵画の世界へ。

1936年、28歳のときには文展で選奨を受賞。

しかしその後は新しい日本画の創造を目指して「創造美術」の結成に参加し、自ら近代日本画家の主流から外れていく(官の展覧会から離れる)。

本名の『ふく』に『不矩』という字を当てたところにも、その心意気が現れています。

矩とはL字型の曲尺(かねじゃく)のことで、直線や直角を描くための道具。

『不矩』とは、曲尺できっちり型にはめる様な、そんな生き方や芸術を否定すること。

つまりは新しい自由な芸術を目指すということ。

秋野不矩の強い想い、反骨心が感じられる素敵な名前ではないでしょうか?

秋野不矩
秋野不矩の意気込み

秋野不矩、インドに魅せられる

不矩は西洋絵画の特質を取り入れ、人物画に新境地を開いていきます。

一方で京都市立美術専門学校(現京都市立芸術大学)において後進の指導に当り、助教授・教授として25年間を勤めあげる。

その教職生活のさなか、54歳でインドのビスバ・バーラティー大学の客員教授の話に自ら手を挙げます。

外国語は全く出来なかったそうですが、インドに約一年間滞在し日本画を教えるという思い切った決断。

そこで不矩はインドでの人々の生活、自然、歴史や文化に強烈なインパクトを受け、魅せられていく。

教授の定年を迎えてからは更に頻度良く、インド訪問を重ねていくことになります。

インドをテーマにエネルギッシュな創作活動

インドを何度も行き来する中で、インドの風景や人々、寺院などをモチーフとした作品を次々に製作していきます。

またアフガニスタン、ネパール、カンボジア、アフリカなども訪問し創作のアイディアを求め、さらに作品の幅を拡げていく。

美術館に並ぶ秋野不矩の作品を見ると、色合いの柔らかさ、ラインの優しさに目を奪われました。

今回展示してあったインドの神々(女神)の表情はまさに仏様の様(変な言い方ですが)で見ているだけで心が落ち着く感じ。

秋野不矩「行者シヴァ」シヴァ神は創造と破壊の神、しかし絵はとても柔らかい印象

不矩の創作活動は定年を迎えてから本格化した訳ですが、その年齢にも拘わらず大作が多いことに驚かされます。

更には作品の制作年を見てまたびっくり。

1998年、1999年の作品がいくつもある!

つまり90歳になっても全く萎れることもなく、力強いタッチで作品を創り上げている。

ただただその芸術家魂とエネルギーに感服です。

1999年不矩が90歳超えの時の作品、横233.5cm、縦118.8cmの大作!エネルギーに驚かされる!(美術館パンフレットより)

秋野不矩美術館の歴史とこだわり

1998年に天竜市立として開館

秋野不矩美術館は1998年に天竜市(後に浜松市に併合)の施設として建てられた市立美術館。
(併合後の正式名称は浜松市秋野不矩美術館)

地元出身の作家、秋野不矩の作品を展示することを目的に建築家の藤森照信氏が設計。

漆喰の壁面、藤ござの通路、大理石の床など、自然素材をふんだんに活かした特徴的な建築で、地元特産の天竜杉もふんだんに使用されています。

下の駐車場からスロープを歩いて上ると美術館がある(5分程度)

珍しい裸足で回る美術館

藤森照信氏は秋野不矩の作品に土足は似合わないと考え
「裸足で鑑賞いただく美術館」
を設計し、1階展示室は履物を脱いで鑑賞する形式になっています。

受付横の下駄箱に靴を入れて回る

第1展示室の床には籐ござが、第2展示室の床には大理石。

また直に座って鑑賞できるよう、作品は通常の美術館よりもやや床に近い位置に展示してあります。

これは秋野不矩の身長が低かったことから、それに合わせたという話もある様です。

『日本建築学会作品選奨』受賞

秋野不矩美術館は建物自体が2000年の『日本建築学会作品選奨』に選ばれています。

展示室だけでななく、階段や扉、バルコニーなどに設計の妙が散りばめられており、建物自体を廻るだけでも楽しみ。

美術館 左の屋根の下が入口
館内のデザインも魅力的

また屋外には2018年にやはり藤森照信氏の設計で茶室「望矩楼(ぼうくろう)」が建てられています。

宙に浮かぶ茶室で、トトロの家(?)みたいな不思議な建造物で、
美術館外部の景観にアクセントを与えています。

残念ながら内部は一般には公開されていませんが、ここでお茶をいただいたらきっとおいしいでしょうね。

宙に浮いた茶室 望矩楼
望矩楼から外を望む(美術館に展示してあった写真)残念ながら一般には解放していない

特別展と所蔵品展

美術館では年間を通して様々な展示企画が催されています。

今回の訪問時には『秋野不矩、金子富之が描くアジアの神々』というテーマの特別展が開催中。
(入館料800円)

特別展の金子富之さんの壁一面の巨大な絵画(館内撮影禁止もこの絵だけはOK)

特別展以外の期間は所蔵品展(入館料310円)となり、美術館が持つ秋野不矩の作品を中心とした約400点もの絵画が随時入れ替わりで展示されます。
(日本画は傷まない様に養生の期間が必要で展示の入れ替えを頻繁にするそう)

特別展は勿論どれも魅力的な企画にはなっていますが、今回見られた秋野不矩の作品は所蔵品のほんの一部。

次回は所蔵品展で、もっとたっぷりと秋野不矩の作品を見てみたいと思います!

秋野不矩美術館基本情報

浜松市秋野不矩美術館
住所:静岡県浜松市天竜区二俣町二俣130
TEL:053-922-0315  
FAX:053-922-0316
駐車場:美術館の丘の下に数十台分の無料駐車場あり

開館時間:午前9時30分~午後5時
(入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は開館、翌日休館)

注:展示替え等での休館日が毎月多くあり、開館カレンダー☟は必ずチェック要!

年間開館カレンダー | 浜松市秋野不矩美術館 秋野不矩の公式WEBサイト
浜松市秋野不矩美術館へのリンクと一般社団法人秋野不矩の会への連絡ページ。

入館料:
【所蔵品展
一般(大学・専門学校生含む)310円
高校生 150円 
中学生以下/70歳以上 無料         

【特別展】
展覧会ごとに料金を設定

今回の特別展

まとめ

秋野不矩美術館は地元二俣出身の日本を代表する女流日本画家、秋野不矩の作品の数々を鑑賞できる場所。

丘の上の緑に囲まれた建物は素材や形状に工夫が凝らされ、浜松で最も雰囲気のある美術館だと思います。

インド滞在を経てその風土や人々の生活に魅せられ、90歳を過ぎても創作活動に熱中し続けたエネルギー溢れる秋野不矩。

力強い大作があるかと思えば、心癒される様な柔らかく優しい表現の人物像もある。

魅力溢れる秋野不矩の生き様を映した400点もの所蔵作品に、今後も折を見ては訪れて少しずつ鑑賞したいと思った今回の訪問。

皆さんも一度は(あるいは何度でも)訪れてみてはいかがでしょうか?

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